2012年8月12日日曜日

放射能の輸出


長い間お休みして失礼しました。17年間住んだシュベービッシュハルを離れ、やっとベルリンへの引越しを実現し、これからはドイツの首都からお便りします。2011年9月にピープルズ・プラン55号に書いた「3月11日以降の世界-ドイツから」(無限遠点では2012年2月に掲載)でもテーマにした、ドイツのダブルモラルのことが、また南ドイツ新聞で取り上げられていたので、それを翻訳しました。(ゆう)

放射能の輸出
──外国の原子力発電所の貿易保証をするドイツ政府
マルクス・バルザー(南ドイツ新聞、2012年8月11日付)

本文はこちら:http://www.sueddeutsche.de/wirtschaft/deutschland-buergt-fuer-atomkraftwerke-im-ausland-strahlender-export-1.1438668

「原発? おことわり」これはドイツ政府ではどうやら、国内でしか通用しないことらしい。ドイツは国内で脱原発を決定したが、同時に政府は外国での原子力発電所の保証を検討している。これには連立政権のパートナーも黙っていないかもしれない。というのも、それはチェコにある疑問の多い原子炉のことだからである。

日本で原発事故が起きた後、首相のアンゲラ・メルケル(CDU)が怯えていたことは明らかだった。「フクシマは私の原子力エネルギーに関する態度を完全に変えた」と彼女は2011年3月半ばに語っていた。彼女いわく、「あれほど技術の進んだ日本ですら原子力エネルギーのリスクは制御できないことが、あの最悪の事故でわかった」と、そしてそれは国境を越えるリスクなのだと。ドイツはそして、2022年に脱原発を実現する。

しかし、だからといってベルリンが東ヨーロッパや新興工業経済地域に建設される新原発の促進もあきらめるとは意味していない。南新聞が得た情報によれば、評判の高いドイツ政府の保証をいくつものプロジェクトが手をこまねいて待っている。それはつまり、必要に迫られれば、ドイツの税金で金融援助が行われるということだ。そうなれば安全性が問題視されている原発ですら、貿易保証を得ることになる可能性がある。

FDP(訳注:メルケル首相の下連立政権をキリスト民主同盟CDUとつくっている自由民主党(FDP))党首フィリップ・レスラーが大臣を務める経済省の文書がその事実を証明している:ドイツ政府は複数の国際的原発プロジェクトに対し、原則的にドイツ政府保証を与える用意のあることを表明した、という。いわゆる「ヘルメス・カバー」と呼ばれるドイツ政府による貿易保証はドイツの機械部品やサービスの輸出におけるクレジット保証である。ドイツ政府はジャイタプール(インド)、テメリン(チェコ)、ウィルファ(イギリス)、それにオルキルオト(フィンランド)での原発プロジェクトに対する保証申し込みを検討するため、「Letter of Interests」(関心表明)を「すでに発行済み」という。これは、南ドイツ新聞のもとにも届いている、緑の党の連邦議会議員であるウテ・コシー氏の問いに対する経済省からの回答から抜粋した内容だ。更に、貿易保証に対する省庁間の委員会には、チェルナヴォダ(ルーマニア)や海南(中国)でのプロジェクトにも問い合わせが来ているという。これで合計して6つのプロジェクトが貿易保証を待ち望んでいることになる。

しかしながらこれらのプロジェクトのいくつもが、かなり問題視されているものである。例えば中国は、海南島で独自の建設を始めているが、その安全基準に対して専門家は強い批判を寄せている。インドのジャイタプールでは、ドイツのエアランゲンにも工場を持っているフランスの原子力産業企業アレバ社が、世界最大の原発施設を建設する計画だ。7つの原子炉を地震と津波が起きやすい地域の真ん中に建てようという。ここは1985年から2005年の間だけで、なんとほぼ100回もの地震があった場所だ。ルーマニアのドナウ川の下流にあるチェルナヴォダでは、環境保護グループが何年も前から40億ユーロと査定される原子炉2基の建設について警告している。建設予定敷地の基盤はヨーロッパでも最も活発とされる活断層の1つだという。ドイツ第二のエネルギー企業RWEではたくさん抗議が寄せられたあとで去年、このプロジェクトから手を引いたばかりだ。

環境保護者にとっては、貿易保証の申し込みと保証がおりる可能性は大きな不安の種だ。「原子力産業の輸出意欲に関しては、ドイツ政府はまるでフクシマなどなかったかのようにふるまっている」と言うのはUrgewald(原暴力)という環境および人権組織の代表を務めるヘッファ・シュッキング氏だ。「ルーマニア、ブラジル、インド、中国などの国々の原子力に関する安全基準は、日本の基準より遥かに遅れているというのに、です。この政策でドイツは、次の原子力事故の地盤を作っているのと同じです」。

内政的に見てもこの貿易保証は「断層」を生みそうだ。というのも、FDPの率いる経済省では、CSU(CDUとの姉妹党でバイエルン州だけにある)との葛藤が待ち構えているからである。ドイツとの国境から60キロしか離れていないチェコのテメリンの原発への納品許可の可能性を、ベルリンの経済省は否定していない。この事故の多い原発施設に、2025年までに80億ユーロかけてさらに2基の原子炉を増設しようというのである。両国の環境保護者たちは安全懸念を表明している。CSU党首ホルスト・ゼーホーファー率いるバイエルン州政府もこの新建設に反対した。そこでベルリンがこのプロジェクトを奨励することになれば、これはバイエルン州都ミュンヘンにとって侮辱と見られること必至である。

経済省は、詳細、時期、財政的ボリュームに関しては言及していない。また、どの企業が保証に関心を持っているかについても、明らかにしていない。レスラー経済相のスポークスマンの話では、ドイツ政府は「原子力プロジェクトに関する特殊な感受性に対してははっきり意識している」そうで、ことに厳しい検査を要求する、という。原子力エネルギーの平和利用を、稼働時間を短くし、なるべく早い時期に終了する、というドイツ政府の決断は、国内のエネルギー供給だけに関することであり、原子力技術を利用する外国の決断に関しては、それはなんら影響を及ぼすものではない、と言っている。

ヘルメス・カバーで国はリスクの高い国々で行うドイツ企業のビジネスを請け負う。たとえばドイツの企業のプラント建設などで、外国の取引先が支払い不可能になった場合、国が肩代わりする。最近では、ブラジルの原発プロジェクト、アングラ3号に対しヘルメス・カバーを許可するかしないかで、何ヶ月も討論が続いた。赤・緑政権(SPDと緑の党)は2001年に指針を厳しくして、原子力技術輸出を奨励することを不可能にした。しかし、その後、黒・黄(CDUとFDP)連立政権は建設部品や測量技術などの輸出等に限って、これをまた許すことにした。フクシマが起こって、ドイツは脱原発ということになったが、貿易奨励の実践に関してはまだ、なにも変わっていないのである。

0 件のコメント:

コメントを投稿