2013年6月11日火曜日

図書紹介『いま、憲法の魂を選びとる』


『いま、憲法の魂を選びとる』

大江健三郎、奥平康弘、澤地久枝、三木睦子、小森陽一 著
岩波ブックレットNo.867 500円+税

2004年10月に「九条の会」がスタートし、その翌年05年6月にこの「反改憲」運動通信が出発した。自民党が「新憲法草案」を出したのが05年10月。12年に自民党の「日本国憲法改正草案」がでた。この8、9年の間、反改憲派と改憲派がお互いに鎬を削ってきたのだ。

「九条の会」はこの冊子の著者5名以外に、井上ひさし、梅原猛、小田実、加藤周一、鶴見俊輔の9人が発起人として並んでいたが、井上、小田、加藤、三木の4名が他界されている。紹介のこの冊子は、2012年9月に開かれた講演会「三木睦子さんの志を受けついで─いま、民主主義が試されるとき」の講演から大江、澤地、奥平の3講師の話に、07年6月の三木睦子さんの「九条の会」学集会での挨拶が巻頭に、巻末に奥平さんと小森陽一さんの対談で構成されている。

三木さんは「あなたのおじいちゃまはねえ」と安倍首相(やマスコミ)が、母方の祖父の話ばかりするが、父方祖父の安倍寛さんの戦中の反戦活動についてもっと声を大にして語れ、と。「あなた」とは安倍首相のことなのだ。

大江さんは、人口の比率からいったら、ヤマトの比ではない人数の沖縄の反基地闘争や、粘り強く訴えつづける反原発の声を無視して、オスプレイ配備を強行したり、原発の存続が日本経済の要のように振舞う自民党政権のこの国は、民主主義国家なのか、と。

奥平さんは、「押しつけられた憲法」というが、あの戦争体験のあと、押しつけられたかもしれないが、それを自分たちの感度に合うものとして選びとってきた、それをずっと続けてきたのではないか、と。

澤地さんは三木睦子さんがどういう方だったかを紹介、加藤周一さんが日本がだんだん軍事化していく土台は、日米安保条約である、と言われたことなどを引いて、亡くなったかたたちの志を継いでいきたいと。

奥平さんと小森さんの対談は、「国民主権を守る思想としての憲法」と題して2013年2月に行われたもので、憲法改正の方向が示されはじめてから今日までの経緯がコンパクトにまとめられ、解説され、ていねいで便利な教科書になっている。

共通して話されている歴史的事例として、「砂川大訴訟」がある。大江さんは「『選びとる』とはどういうことか? ぼくなどがそこで想起するのは、たとえば、砂川大訴訟があります。この訴訟はものすごいエネルギーを要しました。そしてまさに、そういうかたちで、憲法九条のあの平和主義を、ただ単にぼくらは見ていたのではなくて、ぼくたちも一緒になって守ろうとした。つまり、加藤さんの言葉を使わせていただくと、そういうかたちでぼくたちは『選びとった』。それをずっと続けてきているんです。」

ブックレットは薄くて安価で入手しやすい。各項ともお話で、論文ではないので読みやすい。自習にも、会合のテキストにも最適。「九条」が危機的な状況のいま、お薦めしたい。
(凉)
反「改憲」運動通信 第8期23号(2013年5月15日発行、通巻191号)

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