2015年8月15日土曜日

原子力 ── 最後の生き残り

ツァイト紙2016年8月11日付け
川内原発再稼動に関連した記事

2015年8月11日、川内原発一号機が再稼動した。これについては、書くのも不愉快なのでこれ以上コメントしないが、これはドイツでも話題になり、どの新聞・ニュースでも報道された。
ARTEのニュースはこちら:https://youtu.be/Bpm6BLRTlsU
どの報道にも出てくるのが「日本の市民の大半は反対しているのにもかかわらず」ということと、安倍政権が市民の言うことなどに耳を貸していない、ということだ。この記事では、さらにアメリカの原子力ロビーからの圧力があったことがはっきり書かれているので、訳した。まあ、新しいことではないけど。        (ゆう)

本文はこちら:

原子力 ── 最後の生き残り

KERNENERGIE
Die Letzten ihrer Art

世界の中でも、アメリカは日本の原子力技術に依存している。だからこそ、脱原発をしないようにという日本政府へのアメリカからの圧力も大きかったのだ。

Marlies Uken報告
世界中の原子力産業の心臓部は、日本の北海道の南部、人口約10万人のあまり有名とはいえない工業都市室蘭にある。世界のどこでも作られないものがここで製造されている。室蘭にある日本製鋼所は1万4千トンのプレスで、原子力産業の鍵となるコンポーネントの、いわゆる圧力容器を鍛練しているのだ。圧力容器は溶接による継ぎ目なしに一体成形で製造される。

この巨大な鋼鉄でできた容器は非常に重宝されている。たとえばフランスのアレヴァ社のEPR原子炉などの第三世代の原子炉は、この室蘭で作られるモンスター容器が必要だ。溶接の継ぎ目がないということは、それだけ安全性が高いことを示す。そのためにこの鋼鉄の巨大な塊を買おうとする客は、何ヶ月という納期遅延も我慢して受け入れるのだ。

原発を建設しようとすれば、日本と取引せざるを得ない。日本の大企業、日立、東芝、三菱重工などは原子力発電の重要な原子力関連メーカーだ。同時に、これらの企業はアメリカの企業と密接に結びついている。日本の東芝グループは2006年に米企業ウェスティングハウスを54億米ドルで買収した。日立はまた、何年も前から米国のシーメンスといえる、ジェネラルエレクトリック社と提携している。

新原発の建設はすごく高価で手間がかかるため、世界で四つの企業しかこのセクターでは活動していない。フランスのアレヴァ社、ウェスティングハウス/東芝、ロシアのロスアトム、そして中国核工業集団公司がそうである。ドイツのシーメンスグループは2011年の3月にフクシマで原発事故が起きてから、原発新建設事業から撤退した。とはいっても、ミュンヘンに本社を持つシーメンスは今でも従来の原発で使用される蒸気タービンなどに必要な部品はまだ製造している。

しかし、このビジネスは世界中で後退しつつある。あらゆる国が原発の部品を調達するのが困難だったり、納期が遅れたりして奮闘している。フクシマ原発事故で投資者は弱気になり、再生可能エネルギーのブームで電気市場は、かなり混乱状態だ。世界中で投資者も、政権も、市民も原発建設には乗り気でない。フランスのアレヴァグループの株価は、ここ数年来低迷状態だ。格付け機関であるStandars &Poor’s に及んでは、同社の株をハイリスク資産とすら評価している。

フクシマ事故の起きる前の年の2010年、世界各地ではまだ15基の原発建設が始まっていた。原発業界に批判的なWorld Nuclear Reports(世界の原子力産業現状報告)の発表によると、去年はそれがたったの3基だったそうである。新建設はそれに、これまで以上に国による補助が必要になった。最近の例では、イギリスのヒンクリーポイントCがそうだ。フランスの電気会社EdFは何年もキロワット時単位の電気料金を高く設定して法的に保証させてきた。現在、競合電気会社が欧州裁判所で競争法に反するとして訴えている。

原子力ルネッサンスは起こりそうにない。原子力エキスパートのマイケル・シュナイダー氏がハインリッヒ・ボル財団の支援で年に一度発表しているWorld Nuclear Report(世界の原子力産業現状報告)では、現在世界で建設中の第三世代の原発として18基をリストアップしている。その中でもトップを切っているのが日本である。ウェスティングハウス/東芝の原子炉モデルAP100 は、その内8基で建造中で、その後続くのが、あまり驚くことではないが、アメリカが占める3基だ。

日本のノウハウに依存
それだけに、日本が原発から撤退するのではないかとのアメリカの懸念は大きかった。アメリカは日本のノウハウに依存しているからだ。というのも、世界中でアメリカほどたくさんの原発が稼動している国はない。現在のところ99基が稼働中だ。それに応じて米国の原子力ロビーの力は大きい。シュナイダー氏の言うことを信じるとすれば、アメリカのリーダー格にある政治家たちが福島原発事故直後に、日本が原発を固持するよう圧力をかけたというのは公然の秘密らしい。日本政府が原発の未来を信じないで、どうやって東芝・ウェスティングハウスのような日本企業が信憑性高く製品を販売すればいいのだ? 「脱原発するという合図が日本から出されたときは、アメリカの原子力産業からそれこそカタストロフィと見られたのです」とシュナイダー氏は語る。

そしてその通りに、首相安倍晋三率いる保守政権は180度の方向転換を行なった。この火曜日にほぼ4年の中止期間を経て、日本の原発が初めてまた再稼動されたのである。原子力ロビーは胸をなでおろしたことになる。日本の原子力産業は国際的にこのセクターで欠かせない担い手なのだ。「この第1号が再稼動したことを、世界の原子力産業が声を合わせて歓迎する」と世界原子力協会の会長Agneta Rising氏が火曜日にコメントを出している。

シュナイダー氏の言うことを信じるとすれば、この喜びはでもつかの間かもしれない。というのは、原子力分野でまだ未来がある部門があるとすれば、それは原発廃炉ビジネスだ、と彼は言う。世界各地にある原発はどれも老巧化し、これを現在の安全基準に適合するように再装備する価値があるだけのケースはごくわずかしかない、と彼は語っている。