2015年9月19日土曜日

なにがなんでもあっては困る ── フクシマの子どもたちの甲状腺ガン

IPPNWアレックス・ローゼン博士による、
福島県の小児対象2巡目甲状腺スクリーニング検査の
結果についてのコメント

今年8月末に福島医科大学が、小児対象の2度目の甲状腺スクリーニング検査の新結果を発表した。またもやたくさんの子どもたちに甲状腺ガンが見つけられたわけだが、これでもまだ国も福島県も「フクシマ事故」との因果関係は認めたくないらしい。IPPNWドイツ支部の小児科医師アレックス・ローゼン博士が、それについてコメントしているので、それを訳した。                     (ゆう)

原文:http://www.fukushima-disaster.de/deutsche-information/super-gau/artikel/c0954b1c87134eef0b3444d988c2d152/da-nicht-sein-kann-was-nicht-sein-da.html 

なにがなんでもあっては困る
  ── フクシマの子どもたちの甲状腺ガン

【2015年9月8日付け】
2015年8月31日に福島医科大学は福島甲状腺ガン検査の最新データを発表した。過去4年間、合計30万人以上の18歳未満の小児・若者たちが調査対象となり、それぞれ異なる時期に2回にわたり、検査を受けた。

いわゆるスクリーニング検査の1巡目では、537人に超音波検査で異常が発見され、穿刺細胞診断が必要となった。病理診断で、この中から113人にガンの疑いがあるとされた。これらの子どもたちのうち99人は転移または腫瘍が危険な大きさまで成長したということで手術を受けなければならなかった。手術後、一人が良性の腫瘍と判明したが、手術を受けたその他の98人では、すべてガンが確認された。

2巡目のスクリーニング検査で、対象の子どもの数が最初のスクリーニング検査の対象より多かったのは、フクシマ事故後に生まれた子どもたちも対象に含まれたからである。

2巡目のスクリーニング検査では、2014年4月から2016月3月まで合計37万8778人の小児を対象に、これまでに16万9445人が検査を受けている。この二度目のスクリーニング検査からはまだ、15万3677人の小児(40.5%)の分しか結果が出ていない。このうち88人は穿刺細胞診断が必要となり、病理診断で合計25人に新しくガンの疑いがもたらされた。このうち6人は転移または腫瘍が危険な大きさまで成長したということで手術を受けなければならなかった。そして全員にガンが確認された。

ということは、これで合計104人の子どもたちに甲状腺ガンが診断されたことになる。その全員が転移またはガン腫瘍が危険な大きさまで成長したことで手術を余儀なくされている。さらに33人の小児において甲状腺ガン発症の疑いがもたれており、手術を受けることになっている。

2巡目のスクリーニング検査では58.4%に結節や嚢胞が発見された。1巡目のスクリーニング検査では、その率は48.5%だった。ということは、最初のスクリーニングで甲状腺異常がまったくみられなかった28,438人の小児に、今回結節や嚢胞が確認されたということである。そのうちの270人の結節や嚢胞はしかもあまりに大きかったため、さらなる検査が必要となったほどである。最初のスクリーニング検査で小さい結節や嚢胞が確認されていたさらに553人の子どもたちにおいては、いちじるしい成長が見られたため、さらに踏み入った診断をしなれければならなくなったほどである。甲状腺ガンが確認された症例の6人は、初回のスクリーニング検査と2巡目のスクリーニング検査の間にガンが発生している。

初回と2巡目のスクリーニング検査の間に言われているとおり二年が経過しているとすれば、一年間の発生率は10万人の小児に対し年間2人ということになる。日本の小児甲状腺がんの発生率は、フクシマ炉心溶融事故以前は10万人の小児に対し年間0.3人だった。この増加はもはや「スクリーニング効果」では説明できるものではない。さらに、被ばくした福島県の子どもたち6万7千人が検査対象に入っていないこと、そして20万9千人以上の子どもたちがまだ2度目のスクリーニング検査の順番を待っている状態であることを忘れてはならない。これにより、甲状腺ガン症例の数がこれから数ヶ月のうちにまだ増加するであることを憂慮する根拠が十分あるということだ。ガンには潜伏期間があるため、放射能被ばくによる影響が最も顕著に現れるのは、今後数年の間だと予測される。

福島医科大学が甲状腺検査の新しい数字を公表したその日、福島県の行政はこの警戒すべきデータに反応を示した。予測以上に高い数字で小児甲状腺ガン発症が検出されたことが、福島第一原発の複数の炉心溶融により放射性ヨウ素が放出されたことと関係があるかどうかを調査するよう、ある研究チームに要請したのである。この調査の結果はしかし、始める前からすでに決まっていたようである。「福島県で発生している甲状腺ガン症例が原発事故が原因であるとは考えられない」というものだ。このような発言を研究が始まる前にすでに行なってしまうのは、検査の重大さそのものを疑うことにもつながり、驚きを隠せない。

こうして、福島県も日本政府と同じように、国内の原子力産業と実に癒着構造にあり、いわゆる「原子力ムラ」の影響は今も巨大であるということが確認されるだけだ。「原子力ムラ」とは日本では、原子力経済、原発推進派の政治家、金で言いなりになっているメディア、腐敗しきった原子力規制当局等から成り立っている集合体を指し、これらが日本国内の原子力産業を存続すべく推進している。これでは、放射線被ばくによる甲状腺ガン発生に関する、信頼できるまじめな検査を福島県が行なうとは考えられず、今年中には発表されるという結果も、前もって彼らが行った明言と同様であろう。すなわち、「甲状腺ガン発症例が著しく増加したことと、2011年3月に起きた何重もの最悪規模の事故にはなんの因果関係もみあたらない」というものに違いない。それは、なにがなんでもあっては困るからだ。

アレックス・ローゼン医学博士
ドイツIPPNW