2015年2月6日金曜日

ガンには「原産地表示」はない

ガンには「原産地表示」はない
IPPNW(核戦争防止国際医師会議)アレクス・ローゼン博士インタビュー

緑の1kWhでも報告されている(http://midori1kwh.de/2015/01/25/6478)IPPNWのアレックス・ローゼン氏のインタビューが、私がこのたび訳したNanoの5分ほどの動画ニュース(http://youtu.be/nQ5sabgRw-Q)に載っていたので、それを訳した。

3 Sat Nano
本文はこちら:
http://www.3sat.de/page/?source=/nano/medizin/180059/index.html

ガンには「原産地表示」はない
IPPNW(核戦争防止国際医師会議)のアレクス・ローゼン博士とのインタビュー
“Krebs hat kein Herkunftssiegel”
Dr. Alex Rosen von IPPNW im Gespräch

NANOスタッフがIPPNWの医師アレックス・ローゼン氏にインタビューして、フクシマ原発事故後の甲状腺がんのリスクについて訊いた。

日本の甲状腺がん検診で、なにがわかったのでしょう?
要約すればこうです:なにも特筆すべきことは出てこないと予想して検診を開始し、始めはそのように公言していたのですが、108人の子供たちにガンの疑いがあることがわかりました。そしてそのうち80人以上では、ガンがかなり発達しているか転移していて、手術をしなければならないほどでした。つまり、これらの子供たちは甲状腺の一部と異常のあるリンパ節を除去されるということで、そうすれば彼らは、再発することがあるので、一生検診を続けなければいけないし、場合によってはそれからずっと甲状腺ホルモンをとり続けなければいけないことになります。

日本政府は、このような結節やのう胞のみつかった子供たちの数字が高いのは、「スクリーニング効果」だとしていますが?
これまでは、フクシマで見つかった甲状腺がん症例の数が多いのは、スクリーニング効果だ、とされてきました。スクリーニング効果とは、たくさんの人数の子供たちを検査したために、普通なら数年後に症状が出て発見されるような病気ですらみつかってしまうことを言います。しかし、今回の二度目の検診では、前回の検診では健康だった子供たち4人に新しくガンが発症していることがわかったので、とても憂慮すべきことです。これはスクリーニング効果などと片付けられるものではなく、私たちが心配していたことが確証されることになってしまいました。

検査を受けた子供たちの58%で結節やのう胞が見つかったということですが、これは危険なのですか? これはがんになる予備段階なのですか?
今回の検査でおよそ145,000人の子供たちに結節やのう胞が見つかりました。のう胞というのは甲状腺の中で液体の溜まった袋状のもので、結節とは組織にできるしこりです。のう胞も結節も両方とも健康な人でもできることがありますが、同時にガンができる前兆にもなり得ます。ガンに発展する率は高く、今日では子供にできる結節の18%が悪性になる、つまりガンになる可能性があるといわれています。結節はですから、必ずしも自動的にガンだとは診断できませんが、フクシマの子供たちというかなり危険性の高いグループの中でこういうことがあれば、規則的に検査を行なっていく理由として十分です。

子供たちにおける甲状腺の病気と、フクシマで起こったような原子力事故にはどのような関連があるのでしょうか?
フクシマでは大量の放射性ヨウ素が発生したことがわかっています。食べ物、飲料水、空気などを通し、日本に住んでいるほとんど全員が、ことに福島県やその周りの県に住む人々が放射性ヨウ素で被ばくしたわけです。体は普通のヨウ素と放射性ヨウ素を区別できないので、放射性ヨウ素は体内で甲状腺に取り込まれてしまいます。ヨウ素は甲状腺ホルモンを作るのに必要なものだからです。放射性ヨウ素を取り込まないようにするためのヨウ素剤は、日本では一般の市民には配布されていませんでした。

それから、小児の方がことに放射線の影響を受けやすく、たとえ少量の放射線であれ、被ばくすればガンのリスクを高めることになることがわかっています。福島県の子供たちは、原発事故により最初の年に、通常の15~83倍もの量の放射線を甲状腺に受けています。日本のその他の地域では、子供たちの被ばくは約2.6倍から15倍の間です。ですから、このような子供たちの間で甲状腺がんを含めた甲状腺疾患がそのうち発達するようになるリスクは非常に高いと予想するのが当然です。

チェルノブイリと比較できますか?
チェルノブイリでは、事故が起きてから最初の4年間、甲状腺疾患についてしっかり検査が行なわれず、甲状腺疾患の疑いがある患者は、医者が手で触る触診を行なっただけでした。1990年に超音波診断装置で、線量の高い地域の子供たちの甲状腺検査を始めると、予想以上に膨大な数の甲状腺疾患が見つかりました。現在までに、数万人の甲状腺がん症例がチェルノブイリ事故により発生したといわれていますが、この数字は人によって異なるのが実情です(2万人から10万人の甲状腺がんが事故で増加したとされています)。WHO健機関では、たったの5000症例しかなかったといっていますが、彼らは旧ソ連の汚染の一番ひどかった地域と、限定された期間しか考慮していません。放射性ヨウ素がヨーロッパ全体に広がったこと、そしてガン疾患は潜伏期間が長い場合があるので何年も経って初めて発病することを考えると、この数字はかなり上回って修正しなければいけないといえるでしょう。

フクシマでも同じように比較的高い数字でガン疾患が増加することを予想しなければいけないでしょう。国連のかなり「保守的」な数字では、少なくとも1000例の甲状腺がんが増えるとされていますが、公に現れてこない数字は、おそらくあらゆる要素でもっと高いはずです。もっと比較に値することがあります。福島ではロシアに比べてヨウ素の欠乏が少なく、したがって体内に取り込んだ放射性ヨウ素も少なかったため、甲状腺がんのリスクがロシアよりは低いのです。そして放出された放射性物質のほとんどが海に流れ、国土には広がらなかったこともあります。フォールアウトの79%が太平洋に落ちたのです。それに日本は2011年の時点で、1986年のソ連よりもずっと一般の健康状態がよかったし、食品の基準もソ連のそれに比べずっと厳しいです。

原子放射線の影響に関する国連科学委員会UNSCEARが2014年、次のように報告しました。「フクシマでの被ばくによるガンの増加は、大人では予想されない。単に日本の東北海岸沿いの原発事故の影響で、甲状腺ガン疾患数が小児においてわずかに増加する可能性がある」と。この意見に賛成ですか?
UNSCEARは、あらゆる国々で原子力産業を推進している原子力業界の代表者でできている委員会です。これは、例えていうならニコチンの影響に関する国連科学委員会に、タバコ業界の代表者たちがメンバーとしているようなものです。UNSCEARで、基本となるパラメータを過小にし、原子力産業や東電のデータが有利となるように独立した研究の結果をいくつも無視し、間違った予測をいくつも発表しています。残念ながらガン疾患では「原産地表示」がないのが事実であり、個々の因果関係をはっきり調べられません。

フクシマの原発事故により、かなり保守的な計算ですら、それさえなければ健康でいたはずの人間が、数万人はガンに疾患することになるでしょう。甲状腺がん症例はその中のごく一部に過ぎません。国内の統計ではこのような疾患の増加は、すでに日本ではガン発生率が高いので、おそらく目立たないかもしれません。しかし一人ひとり、またその家族にしてみれば話は別です。人間の運命を統計のトリックで相対化してしまうのは、私たちからの考えでは非科学的なだけでなく、非倫理的です。どの人にも健康でいる権利も、健康な環境で生きる権利もあり、日本の社会にはこの権利を具体的に実現する財源もあるはずです。

これらの子供たちを助けることはできますか? 甲状腺がんにはいい治療法がありますか? 完治の率はどのくらいあるのでしょうか?
甲状腺がんは、ことに日本のような保健制度では、比較的治療しやすいものです。統計の上では、症例のうち約7%しかこれで死に至ることはありません。同時に、規則的に血液検査とエコー検査が必要となりますし、手術や甲状腺ホルモンをとることも必要となります。さらに患者とその家族は、再発の不安と常に向かい合って生きていかなければなりません。そうすればまた手術しなければなりませんし、それもリスクを伴います。たとえば、甲状腺のすぐそばに重要な神経が通っているため、言葉がしゃべれなくなることもあります。

ですから、予防が一番のソリューションです。ということは、子供たちをまず放射性ヨウ素に被ばくさせないことです。原発事故があったら直ちに子供たちを避難させ、即刻ヨウ素剤を与えなければなりません。このことは日本では両方とも遅ればせに、しかも不十分にしか行なわれませんでした。この日本の過ちから我々ドイツも十分に学習すべきです。私たちのところでもこれからまだ何十年にもわたって原発最悪事故の起こる可能性はあるのですし、私たちの官庁なども日本と同じようにちゃんと準備ができてはいないはずです。このことは、原子力事故を想定した練習でドイツ全体でかなりめちゃくちゃだったことが公表されて明らかになっています。

日本政府は、被害を受けた子供たちを十分に助けているのでしょうか? それとも無視したり、過小評価したりしているのでしょうか?
日本政府はかなり厳格な原子力推進政策をとっており、できるだけ早い時期に、国内の原発を再稼動すると発表しています。それで病気の子供たちのことは都合がよくありません。原子力産業と政治の癒着は、日本ではドイツでそうだったよりも何倍も強いのです。日本政府は「市民の放射線の影響に関する余計な心配事を排除する」ために、現在かなりの金額を出費しています。福島の人々はでも、そのような間違った約束事では助けることはできません。彼らが欲しいのは、客観的な情報や医学的サポートですし、そしてなによりも、健康に生き、健康な環境で生活するという彼らの不可侵の人権を認めてもらうことです。これこそフクシマの健康に関する影響を評価する上での基本原則でなければいけないはずで、経済や政治の利害であってはなりません。

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