どうやったら気候温暖化を本当に止めることができるのか? 新しく各地で始まったダイヴェストメント(Investment、投資の逆、すなわち投資した資本を撤回すること)運動は資本家に石炭・石油・ガス企業から資本を撤退することを訴え、成功している例がいくつもあるという。世界各地で2月13日と14日にグローバル・ダイヴェストメント・デーとしてあらゆるアクションが行なわれたそうだ。私の住むベルリンでもアクティビストがいろいろ活躍していることを知った。彼らがベルリン市に提出した公開状Fossil Free Berlinには、私が好きなHarald Welzer氏もサインをしていた。
最新のツァイト紙の「経済」欄に大きくこの行動についての報告が載ったので、それを訳した。(ゆう)
Holt das Geld da raus!
Die Zeit vom 13.05.2015
記事はまだオンラインで読めないがこちらを参考:https://fossilfreeberlin.wordpress.com/2015/05/13/fossil-free-in-der-zeit-vom-13-mai/
報告:フェリックス・ロアベック(Felix Rohrbeck)
金を取り上げろ!
マティアス・フォン・ゲミンゲンがベルリンの市庁舎で必要としたのは、三人の偵察隊だ。23時47分に偵察メンバー第1号から携帯に連絡が入る。「今こっちに来た」。来たというのは市庁舎を警護している制服を来た警察官たちで、彼らは自分たちが巡回の間監視されていることを知らない。
39歳のフォン・ゲミンゲンは残りのチームと市庁舎の後ろで待機する。警察官たちが彼のそばに来るまで、残るは10分あまりだ。60キロもある赤いホンダの発電機のエンジンがかかる。この発電機につながっているのは、車のトランクルームに隠してある巨大なプロジェクターだ。
マティアス・フォン・ゲミンゲンが合図をする。「行くぞ!」
グループの一人がプロジェクターのスイッチを入れる。瞬く間に市庁舎の正面に大きく、白い文字が照らし出される。「Divest!」と書いてある。「渡した金を取り上げろ」とでもいえばいいか。
グループのカメラマンがシャッターをパチ・パチ、パチと何度か切る。それから次の文字だ。「石炭、石油、ガスから撤退しろ」。またパチ、パチとシャッターの音。ぐずぐずしている暇はない。警官たちがすぐそばまで来ている。ゆっくり映写された文字を見ている暇はない。
しかし次の日、ここで撮った写真が世界を駆け巡る。運動家たちはこれらの写真をフェースブックやその他のソーシャルメディアで拡散する。彼らには世界中にヘルパーがいる。ベルリンの小さいグループの背後には、グローバルな、大きく成長しつつある運動が潜んでいるのだ。
イギリス、フランス、ルクセンブルク、米国、カナダ、フィリピン、ニュージーランドと、各地でこのベルリンのようなアクションが行なわれている。企業、大学、市、年金基金、保険会社、教会などに送られるメッセージは常に同じだ。「石炭、石油、ガスから撤退しろ!」
具体的に言えば、こうだ。このメッセージを受け取った団体は、最大級の化石燃料のたくわえをもっている、株式市場に上場されている企業200社に投資をするな、というのである。Gazpromもここにリストアップされているし、同じくExxon、BP、Statoil、PetroChina、Coal India、RWE、BASFがそうだ。これらの企業の株や公債を持っているものは、それを売り払うべきだというのである。
活動家たちは石油、ガスや石炭を使って商売をしている企業を、この方法で金銭的に「干上がらせよう」としているのだ。これらの企業も投資家が見つからなくなれば、化石エネルギー源は地中に埋もれたままで燃やされることはない、というのが彼らの計算だ。地球温暖化をもたらすビジネスはもう利益を上げないようになるべきなのだ。
2012年以来、これを支持する投資家の数が増えている。自ら確信して進んで始めた人もいれば、ベルリンの運動家たちがやっているように運動家の圧力に負けて、考え直したという人たちもいる。
アメリカではサンフランシスコやシアトルなどの市がダイヴェストメントすることを公言した。オーストラリアのブリスベン、イギリスのオックスフォード、スウェーデンのエレブルーもそうだ。70以上の教会系団体も、スカンディナヴィアの年金基金、カレッジや大学もそこに並んでおり、ことに大学では名声の高いスタンフォード大学がダイヴェストメントを公言している。創立者がかつてその石油帝国をもって巨大な財産をつくりあげたロックフェラー・ブラザーズ基金ですら、ダイヴェストメントを自らに義務付けている。ほとんど毎日、新しい団体がそのリストに名を連ねる。Amundiのような大きな資産管理会社ですら、ダイヴェストメント運動の条件にはまるような投資のプログラムを用意しているのだ。
本当にそんなことがありだろうか? ほぼ二十年来、あらゆる国や政府の代表者たちがサミットで世界の二酸化炭素排出量を減らし、将来の温度上昇を二度に制限しようとしながら大した成功をあげていない。そこに大して金も専門的構造もないわずかな活動家たちが現れて、それをやってのけるというのだろうか?
ベルリン市庁舎でのアクションの1時間半前、フォン・ゲミンゲンはアレキサンダー広場にある壁に腰掛けて、グループと待ち合わせしていた。彼は灰色のキャップを被り、フード付きのトレーナーを着込み、茶色のメガネをかけている、無精ひげを生やした若々しいタイプの男性だ。彼は仕事では、インターネットでの食料品オーダーを専門とするベルリンのスタートアップ会社のマーケティングをしている。彼は自分のことを、市民運動家としては「別世界から入り込んだ新参者」と称している。彼はこれまでの15年間、熱心に仕事をし、バンドでサクソフォンを弾き、結婚し、リュックサックを背負ってメキシコ、ブラジル、南アフリカなどに旅行していたという。政治的にはしかし、全く運動などしたことがなかった。せいぜい、オンラインの請願書に署名したくらいだった。
ところが、サンパウロに住むフォン・ゲミンゲンの友人たちが急に水がなくて困っている話を聞いた。南アフリカで彼がキャンプファイヤーをして楽しんだ砂浜がもうじきなくなりそうだ、というニュースが入った。気候変動はそれからというもの、彼にとって抽象的な危険ではなくなってしまったのだ。彼がそれまで知っていた世界がすでに変わり始めているのである。フォン・ゲミンゲンはこれに対抗してなにかをしたいと思った。ただ請願書にデジタル署名をする以上のことがしたいと。
フォン・ゲミンゲンはダイヴェストメント運動のことをインターネットで知った。彼は勇気を出して、ベルリンでの最初の集会を組織した。「ここでは本当になにかができる」と彼は言う。「署名を集める紙をボードに挟んで、何年も歩行者天国をうろうろする必要はない」と。政治的にもっと大きなテーマに取り組んでいる古典的な市民運動より、この運動のテンポはずっと早い、と彼は言う。世界のどこかで常に小さな勝利を勝ち取っている、と。フォン・ゲミンゲンの解釈はこうだ。「お金は回転が速いので、疑いがあればそれを撤退させるのは簡単だ。」
議会外でグループが集会に集会を重ね、ビラを配って議論をしている間、ダイヴェストメント運動は敵の資本論的ロジックを都合よく利用し、それをさらに倫理的プレッシャーに結び付けている。例えばダイヴェストメント運動家たちはハーバード、オックスフォードやメルボルン大学の運営管理部にこう質問するのである。「教授たちが講義室で気候変動に関する厳しい内容の講義を行っているというのに、その大学が同時に気候変動で金儲けをしているというのは分裂症的ではないのか?」大きな大学では何百億ドルという資産がああって、それをファンドを通したり直接株を買ったりして石炭生産者の企業に投資しているところが多いのだ。国の政府も、聞かれたくない質問攻めにあっている。なぜ、地球を救済する会議を催しておいて、同時に年金生活者のためのお金を石炭、石油、ガスで増やそうとするのだ? ヨーロッパの年金基金だけで、欧州緑の党の調査によれば、2600億ユーロが石炭、石油、ガスに投資されているという。慈善事業と謳う基金や財団などですら、怪しいものだ。慈善事業をするといいながら、どうして汚いエネルギーに資金を投資して増やそうとするんだ? というわけである。今攻撃の的となっているのは例えば、ビル&メリンダ・ゲイツ財団だ。
倫理的な圧力をかけるのに、運動家たちは経済的な論拠を用意している。ダイヴェストメント運動が要求していることは、投資家の利益にもつながると証明しようとしているわけだ。
アメリカの作家ビル・マッキベンが2012年に初めて、こうした論拠をローリングストーン誌で大衆向けに発表した。本当は、彼はただロンドンのNGOカーボン・トラッカー・イニシアチブの無味乾燥な数字を分析評価しただけだったのだが、ソーシャルネットワークでこれが飛び火のように拡散された。ローリングストーン誌の編集者がマッキベンに電話をし、こんなことは今まで経験したことがない、と言ったそうだ。なんと雑誌の出た二ヵ月後にはこの記事は11万2千件のフェイスブックの「いいね!」を記録し、1万2千件以上ツイッターで言及され、5千件以上の読者コメントがあったというのだ。
この記事の計算は、こうだ。もし気温上昇を二度に抑える目標をおざなりにもある程度守ろうとすれば、人類は2050年までに565ギガトンの二酸化炭素しか大気中に排出してはいけないことになる。それで終わりにならなければならないのだ。今日地中に眠っている石炭やオイル、ガスのリザーブはしかし、燃やせばその5倍以上を大気に排出することになってしまう。と言うことは、このリザーブのほとんどは企業がすでに確保しているが、これらは決して燃やされることがあってはならないと言うことになる。でなければ気候が過熱するからだ。
マッキベンの説が正しければ、これは投資家にとって恐ろしいニュースとなるはずである。将来、政治が本気でこの気温上昇を二度に抑えることになって、たくわえのほとんどを燃やすことができなくなれば、それらは無価値のもの、ということになるからだ。私欲からだけ考えても、化石エネルギーへの投資からお金を撤退するのが投資家にとってはベストだ、と彼は主張した。この論理で行けば、化石エネルギー原料で金儲けをしている企業への投下資本は今日、予想しているよりずっと価値が低いことになる。こういうのをバブル、と呼ぶのだ。
この説はエコロジー運動家の空想の産物ではない。金融界でもいわゆる「カーボン・バブル」を真剣に受け止め始めている。石油会社は彼らの株価の60%を失う可能性がある、とイギリスの最大銀行HSBCが2013年の調査で警告している。保険会社のマネージャーたちも懸念している。英国銀行の総裁は先日、政治が機構保護措置を厳しくした場合には、化石エネルギーへの投資が「多大なる打撃」をこうむることになる可能性がある、と警告したばかりだ。機関投資家専門の大手証券ブローカーであるケプラー・シュブルーのリサーチチームは、エネルギー業界の損失は28兆ドルになると予測している。カーボン・バブルがはじければ、2007年の金融危機でバブルがはじけたときと同じくらい大変なものになる可能性があるのだ。
マッキベンは金融業界の論拠をエコロジー運動の世界にもたらしたのである。この記事を発表してからすぐ、彼は作家から気候運動家にすっかり成り変わり、ダイヴェストメント運動を始めて、今日でもその運動を代表する顔となっている。2014年の12月には彼は、それでもう一つのノーベル賞を受賞している。
その2年前の2012年11月、マッキベンは彼が作った小さな組織350.orgを率いてアメリカで初めてのダイヴェストメント・ツアーを開始し、全国のあらゆる集会ホールを埋め尽くした。ここに、当時学生として350.orgで研修をしていたティネ・ラングカンプ(Tine Langkamp) がいたわけだが、彼女が現在ドイツで唯一の専任の運動家だ。マッキベンの「公演」は2012年にはすでにただの啓蒙運動ではなくなっていて、太鼓を叩くものあり、DJあり、反グローバリゼーション運動家のナオミ・クラインなどのビデオ中継が入るような大イベントとなっていた。そしてマッキベンがビールを片手に舞台にのっそり登場すると、こう説明するのだ。二酸化炭素というのはアルコールのようなものだ。「ちょっとならいい。しかし両方とも限度というものがある」。
それからカーボン・バブルの数字を見せる。そして集会に来ていた人たちは誰でも納得するのだ。これではどこかおかしい、と。
集会が終わると、聴衆の多くが質問状を出し始める。自分が在籍する大学へ、自分が住む町へ、自分が所属する教会へ。彼らの質問はこうだ。化石エネルギーのビジネスにお金を投資しているか? もしそうなら、額はどれくらいだ? それからその金を撤退するようにという要求が続く。今ではアメリカでは500以上のこのようなキャンペーンがある。それに応じない者は、この運動の圧力を感じることになるわけだ。
イェール大学では例えば、大学の学長の事務所を学生たちが占領し、学長が将来大学の基金の240億ドルの内1ドルたりとも汚いエネルギーに投資しないことを要求している。4月にはデンマークでは、年金基金の6つがその株主総会でダイヴェストメント提議を審議しなければならなくなっている。ロンドンでは著名なガーディアン誌がジャーナリストの「一定間隔を置く」原則を破って、ビル&メリンダ・ゲイツ財団とイギリスのウェルカム・トラストに対する請願書で、化石エネルギー関係の投下資本から資金を撤退させることを求めている。この請願書にはすでに20万人以上の人が署名をしている。
それではドイツではどうだろう?
アメリカのマッキベンのもとでの研修を終えてドイツに帰ったラングカンプは、ミュンスター大学でキャンペーンを始めた。彼女は大学管理本部に書状を送り、化石燃料へ投資している資本があれば、そこから資金を撤退するよう求めた。当大学が管理する基金には、大手のエネルギー企業の株を持っているファンドに資金を入れているところがあるのだ。
しかし書状が何の効果ももたらさないので、2014年7月に行なわれた大学祭に、白黒の衣装を着たウェイトレスが登場することになる。このウエイトレスたちは唖然としている客に向かって「石油ドリンクはいかが?」と聞いて回ったのだ。シャンペングラスに入れられた液体は黒くてねばねばしているものだった。
それから運動家たちが大学長ウルスラ・ネレスの演説を中断し、白いポスターを舞台の上で広げて見せた。そこには赤い文字でこう書いてあった。「石炭、石油、ガスから撤退しろ!」ネレスは腕を組んで、グループに話をさせたが、要求内容に耳を貸すつもりはなかった。「あなた方のメールはもうスパムファイルに入るようになっています」と彼女は舞台の上で何百もの客の前で言い放った。そして大学際が終わる頃、誰もいないところでこう言った。「あんなごろつきに指図は受けない」。
ラングカンプにとってはしかし、このアクションは考え抜いたコンセプトの4つの段階のうちの、第一ステップに過ぎない。まず、ミュンスター大学のような小さな組織にダイヴェストするよう運動する。そこで問題となる資金の額は小さいが、これでマスコミが注目するようになるはずだ。二番目のステップでは、スウェーデン国教会やスタンフォード大学といった大きな組織や団体に賛同してもらい、この運動が広く認められるようになって大きく躍進する。そして三つ目の段階では、本当に大きな額が対象となる、銀行、保険会社やファンドに圧力をかける。そして最終的に四段階目で政治が切羽詰って賛同せざるを得ない状況に追い込まれる、というものだ。
しかし、ミュンスター大学の学長が賛同せず、第一段階目でもめていたらどうすればいいのだろう?
ミュンスターのグループはそれで、市に訴えた。そして市議会は本当に、市の公務員の年金のお金を石炭・石油・フラッキング産業の会社には投資しないことを決定したのである。これがドイツでの一番最初の小さな勝利だった。
2014年10月に、ラインハルト・ビューティコーファーの事務所がラングカンプに電話をしてきた。欧州緑の党の代表が彼女の運動について詳しく知りたいと言ってきたのだ。彼らはベルリンで食事を一緒にした。ラングカンプは最初は確信できないでいたが、それから得心した。「彼は本当に運動の一部になるつもりだ」と彼女は言う。
半年後の2015年4月、ミュンヘンのメッセ会場のホールを3000人以上の人が埋め尽くした。ミュンヘン・リュック保険会社の株主総会だ。ミュンヘン・リュック保険会社は、2730億ユーロの総合収支を計上する世界で最大級の再保険会社だ。株主総会の株主の中にビューティコーファーの顔もあった。批判的な株主には議決権を彼に委任している人もかなりいたので、彼は話す権利があった。ビューティコーファーはそれでマイクに向かった。「カーボン・メジャーへの投下資本に何百億ユーロの資金を再保険しているのか?」と彼は舞台の上の役員会に質問した。そして「化石エネルギーへの投資から段階的に撤退するつもりがあるか?」
役員会代表のニコラウス・フォン・ボムハルトは言葉を濁した。当社は2500億ユーロに相当する投下資本を持っているが、「そのうちどちらかといえば化石エネルギー分野に投資されているものはわずかだ」と言うのだ。ビューティコーファーはこのような曖昧な答えでは納得できず、質問を白い紙に書いて、書面で質問を提出した。数日後に届いた回答には、こう書いてあった。オイルとガス業界への投下資本は、当社の投下資本の1.2%にあたる。当社では、カーボン・ダイヴェストメントイニシアチブの目標を資本投資の上でも考慮すべきか検討するが、今のところ具体的なダイヴェストメントを行なう計画はない」。
ビューティコーファーは引き下がるつもりはない。「ダイヴェストメントほど気候保護に活力をもたらす運動は今のところ他にない」と彼は言う。自然科学的な論拠はすでに人が知るところである。「しかし、エコロジストたちが金融戦略的論拠を持ち出してくるとは、誰も全然予想していなかったことですからね」と。ビューティコーファーは欧州中央銀行の総裁マリオ・ドラギにも書状をしたためたほどだ。彼はそれで、カーボン・バブルについて科学的諮問委員会に調査させることにした。
権力者が行動に移すのだけを待っているつもりのない人はたくさんいる。ミュンスターからドイツ全体にラングカンプの与えた刺激は波及したのだ。いまや17の都市に自治的グループのネットワークが出来上がった。
ベルリンでも同じである。マティアス・フォン・ゲミンゲンは、同志と共にベルリンの市長宛に書状を書き送った。ドイツの首都には「約10億ユーロの投資可能な金融資産がある」。「経済的リスクと地球体系(Earth system)に対する破滅的な結果」を考慮し、ミュラー市長は化石燃料への投下資本から資金を撤退すべきだという内容である。市長からまだ回答はない。しかし、真夜中の12時ちょっと前、巡回の警察官たちがもうほんのそばまでやってきているとき、フォン・ゲミンゲンたちはもう一度督促状を送った。市庁舎の赤いレンガの上に照らし出された最後のメッセージには、こう書かれてあった。「ミュラーさん、早く!」
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