『小国主義──日本の近代を読みなおす』
田中彰 著 岩波新書 660円+税
何かの文章で見たタイトルに興味を持ちメモしておいたものだが、改憲がいよいよ迫ってきたいま、気にかかっていたこの書を購入した。1999年に出版されていたもの。著者の専門は「日本近代史」。ずっと以前から岩波文庫の目録でのみお馴染みだった「岩倉使節団『米欧回覧実記』」の監修者である。
明治維新成ったものの近代国家をどうイメージするか、という難問にぶつかった維新の中心人物たちにアドバイスしたのが、お雇い外国人のオランダ系米国人宣教師G・F・フルベッキで、欧米の視察を提案した。長年の鎖国から目覚めた日本国が幕藩体制から西欧中心の国際社会にいかに参加していくかを学ぶことを目的とする国家プロジェクトとして実行された。岩倉具視を特命全権大使とし、木戸孝允、大久保利通、伊藤博文ら総勢46名で1871年に米国を皮切りに1年10か月をかけて米欧14か国を視察した。帰国後、大使随行の久米邦武が記録係として、「実記」の編集・執筆に当たった。
明治維新に功労のあった薩長の重鎮たちは、米英仏などの大国に目を奪われたが、使節のなかにはオランダ、ベルギー、スイスなどの小国が大国の侮りを受けずに国威を発揚していることに注目する者があった。「実記」は全100巻のうち12巻を小国の記述に当てている。
その後、国家主義が幅をきかしたわけだが、「小国主義」を唱える流れは続いていった。民権運動者植木枝盛→中江兆民→三浦銕太郎→石橋湛山という人たちが受け継いぎ、著者に拠れば、伏流水のように現れたり隠れたりしながら、消えなかったと。国土が小さく、資源が乏しい国では軍備を廃し、領土拡張を止め、学問技術の研究と産業の進歩に力をそそぎ、個人の自由と活動の増進を図ることが肝要であるという点はこの人たちに共通している。殊に軍備の拡大は国民を苦しめるだけで、経済的損失の大であることを言っている。
1945年の敗戦後に米GHQの要請により憲法草案が提出されたが、中でも「憲法研究会」(高野岩三郎、鈴木安蔵ら)の草案には植木枝盛の「日本国々憲案」に相似している部分が多く、まさに小国主義の考えでできている。政府から「憲法調査委員会の「憲法改正要綱」(松本烝治委員長)が提出されたが、言葉の言い換えはあるが、「帝国憲法」と変わらない発想であるとして退けられた。占領軍の「押しつけ憲法」からの脱却を改憲論者は盛んに唱えるが、「憲法研究会」の要綱が主として採られたことは無視しての言論だとわかる。
「湛山は軍備が必要なのは、『他国を侵略するか、あるいは他国に侵略せらるる虞れあるかの二つの場合のほかはない』という。いま、政治家も軍人も新聞記者も異口同音に、日本の軍備は他国を侵略するためではないといっているから軍備の必要はない。他国からの侵略の虞れも、かつてはロシア、いまではアメリカを挙げたりするものの、彼らが日本の本土を奪いに来るだろうか、と述べる」
いま、安倍政権に同じことを言いたい。小さい国が「G」のつく会議に出て、背伸びをするのは民を苦しめるだけだと。「小国」論よ、大声になれ!
(凉)
反「改憲」運動通信 第8期22号(2013年4月24日発行、通巻190号)
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