2012年6月22日金曜日

【書評】前田哲男 著『自衛隊のジレンマ』


『自衛隊のジレンマ──3・11震災後の分水嶺』
前田哲男 著/現代書館/2000円+税

3・11大震災後の自衛隊の出動は、十万人以上にも及び、物資の輸送、生活支援、遺体捜索、瓦礫の片付けと多岐にわたって大きな役割を果たした。お世話になった人たちは口々に「ありがたい、ありがたい」と感謝しているのを、私たちも報道を通じて何度も見た。衣食住を自前で賄え、壮年の揃った力を発揮してもらえる組織は、こういうとき実に頼もしい。台風や地震の災害の度にでてくるのは「自衛隊を災害救助隊に!」の言葉だ。こんどのような広範囲の大災害の場合にはことさらその声が高かった。

「自衛隊に感謝」のこの時期にこそ この欄で自衛隊に関する本を取り上げたいと、出版物に注目していたら、7月に「3・11」のサブタイトルのついた「自衛隊本」がでたのを見つけた。もちろん「3・11と自衛隊」に触れた部分はあるが、本文のほとんど書き上がったところにあの地震が来たのだと、緒言にある。だから、1章「ソマリア海域の自衛隊」2章「自衛隊はどんな軍隊か?」3章「自衛隊の歩いてきた道」4章「自衛隊のいま」5章「フェンスの内側の世界」6章「その先の世界」7章「日米安保という問題」終章「『それでも日本は九条を選んだ』といわれるために」という章立てになっている。

1950年に自衛隊の前身である「警察予備隊」がスタートしてからの主要ないきさつ、変遷が、歴史的資料を配置しながら要領よくまとめられている。報道で知り得た範囲のことで、特別な秘密資料は登場しない。ではあるが、いつの間にか忘れていること、経緯が曖昧になっていることが、整理して記述されていて、あらためてこの組織が「順調に成長」してきたことを通史として捉えることができる。

各種世論調査でも憲法九条は国民になくしてはならないものとして支持されているのに、「日米安保条約」にがんじがらめになっている日本国。同じように敗戦国となり米軍・連合国軍に占領され、多くの基地をおかれたドイツが、そのくびきから脱し始めているにもかかわらず、日本国の基地は米軍の思うままの形で固定化し、自衛隊の米軍への隷属度は深まるばかりなのは、どういうことなのか。共同演習は年中行事になり、司令部の一元化、主要な兵器はほとんど米国製。日本国は独立国家なのだろうか。鳩山元総理が沖縄基地を県外に、と言ったときに、米国から一蹴されたらしく、へなへなとなったときのことは忘れられない。

震災からの復興、原発事故への対策で、おカネが全然不足だというのに、次期戦闘機の選定で出てきているその価格の途方もない高額なこと! 基地移転・整備にとられている予算の膨大さ! 自衛隊の海外派兵も着々と実績を積み上げさせられている。

この書を読みすすむと、「自衛隊を災害救助隊に!」の熱望も所詮叶わぬ夢にすぎないことだと、風船がどんどんしぼんでゆく。しかし、著者前田さんは、終章でオールタナティブを提出している。「九条のもとで“よい自衛隊”に変えていくための二〇の提案」を読んでほしい。それぞれ意見はあろうと思うが、自衛隊の本質をよく知った上で、なお諦めずに「提案」をする姿には教えられる。私たちも一人一人が提案を出していかなければ!
(凉)

『反「改憲」運動通信』第7期10号(2011年10月19日発行、通巻154号) 

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