2012年6月28日木曜日

【書評】内部被曝


『内部被曝』
矢ヶ崎克馬、守田敏也 著/岩波ブックレットNo. 832/560円+税

フクシマの事故以来、放射能に対する恐怖は私たちの脳裏から離れませんが、殊に子どもを育てている親の怖れと迷いはどれほどのものでしょう。食品の放射能の数字はときどき知ることができるけれど、ほんとうのところ、「内部被曝」とはどういうものなのか、どうもよくわからない、とかねて思ってきました。

このブックレット(対談形式)を読むと、「内部被曝」の研究は実は伏せられていて、研究したり、公表したりしにくい状況が学界にあるらしいことがわかってきました。ヒロシマ・ナガサキのあとのアメリカの調査(例のABCCなどの)により、外部被曝に対して内部被曝は格段に被害が大きいことがわかり、核兵器の残虐な殺戮性を隠さないと、今後の核戦略と原子力産業の発展の妨げになるから、伏せていく方針がとられることになったそうです。そうリードしたのは国際放射線防護委員会(ICRP)で、そこが国際的権威ということになり、ほとんど世界のすべての医療機関、教育機関、原子力機関などがこの考えを受け入れているとか。これを批判してできたヨーロッパ放射線リスク委員会(ECRR)では、内部被曝の危険度は、外部被曝の600倍と指摘しているようです。アメリカ追随のこの国は、もちろんそのことは言わないわけです。私たちが、内部被曝のことについてモヤモヤわからないはずなのでした。

矢ヶ崎さんは広島大学で物理学を専攻、琉球大学で定年まで理学部教授をつとめられた方ですが、「原爆症認定集団訴訟」で内部被曝の証言をなさったと、紹介にあります。「被曝の解明に重要なことは放射線が生命体に作用するプロセスや、体内に入った放射性物質と被曝の状態を具体的に明らかにすることです。物理的な視点でこれを考察しているのは現在では私だけです。」とありますから、貴重なテキストといえるでしょう。

第2章の「内部被曝のメカニズムと恐ろしさ」にその仕組みが解説されています。相当むずかしくて、何度も読み直さなければわからないのですが、政府や東電が私たちを騙すのに、この難解さこそが好都合なのだと気づきます。たしかにむずかしいのですが、矢ヶ崎さんは冷たい科学者ではなく、どの部分にも深いやさしさが感じられます。殊に被災地の人たちの迷いや決断に寄り添い、考え深い助言が全体にちりばめられていると感じました。

あとの目次は、第1章「被曝直後のフクシマを訪れて」、第3章「誰が放射線のリスクを決めてきたのか」、第4章「なぜ内部被曝は小さく見積もられてきたのか」、第5章「放射線被曝に、どのように立ち向かうのか」となっています。

聞き手の守田さんは、フリーライターとして、被災地を自転車で飛び廻って取材を続けている方。その指摘に、人、といっても老幼、男女、免疫力などに差があるのを、一視同仁にしていることの危険性へ警告があっておおいに頷けます。

たった71ページの冊子ですが、教えられることばかりです。内部被曝は怖ろしい、隠すほうも悪いけど、無知もダメと思いました。ぜひ読んでください。
(凉)
反「改憲」運動通信 第7期22号(2012年4月25日発行、通巻168号)

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