『六ヶ所村の記録──核燃料サイクル基地の素顔』上・下
鎌田 慧 著/岩波現代文庫/(上)1080円+税、(下)1360円+税
フクシマの大事故以来、学習のための推薦図書があちこちでリストアップされています。そのなかに必ずといっていいほど取り上げられている、『六ヶ所村の記録』は、ちょっと長めなので、後回しにされがちですが、これこそぜひ読んでいただきたいので、現代文庫版が出たこの機会にご紹介します。
鎌田さんは『原発列島を行く』(集英社新書)などでも知られているように、全国の原発立地点を歩いて事実を報告されていますが、「六ヶ所村」については、まだ「核施設」の候補地とはぜんぜん言われてないときからこの地に足を運んでの調査が始まっています。
下北半島の斧型の鎌首が立ち上がる、太平洋側に「六ヶ所村」はあります。南から順に、倉内、平沼、鷹架、尾駮、出戸、泊の六村が1889年に統合してできたので、南北に長い村だそうです。村の更に南に「小川原湖」があります。このへんから陸奥湾まで一帯を総括した「むつ小川原工業開発」事業が立ち上げられ、農地買収が1967年に始まります。それが、工業団地などではなく、「核燃料サイクル基地」となってしまうまでを、丹念に追ったルポルタージュがこの書です。
鎌田さんは、自分の眼で見たり聞いたりしたものでなくては、書いたり、話したりできない、と常日頃話されますが、ここではまさに、鎌田さんのじかに調査されたことの報告のみがあります。資料・統計とかはほとんどでてきません。そして明かされるのは、「ゲンパツ」はこうして過疎地を襲う、ということです。それにとどまらず、この国の政治・政策の進め方の本質を捉えて、私たちに示しています。
巻のはじめに、3枚の地図が載っていますが、第一が、下北半島の原子力・軍事基地一覧です。このへんは、ヤマセという農業をするには困った風が吹くところで、人が住みにくい、ロシアを睨んで軍隊が駐留するのに適した位置にある、などから、実にたくさんの軍関連の施設があります。弾道試験場、射爆場も過疎地だからの存在です。でも敗戦後、満州開拓地・樺太からの引き揚げ者の入植があり、苦労の果てに牧畜等で生き残れた人たちが住んでいる土地でした。そこを追いたてるような用地買収です。人には一人一人事情や意思があります。鎌田さんはお名前を出して一人ずつにそれを聞き出しています。村には村長、町には町長、そして市長や知事がいます。人は、権力や金力の誘惑にはほんとに弱いものです。国はそこにつけこんで、彼らの欲望や命運を操っていきます。
3・11以後、いままで隠されていたことが少しは暴かれてきました。でもマスコミはどこかで妥協し、薄めた情報しかだしません。この国の構造的なゴマカシ、オドシ、トリアゲなどのやり口を学習していかなければゲンパツはなくなりません。
鎌田さんの文章は読みやすく、上から目線がないので、すなおについてゆけます。3・11以後の増補があり、「六ヶ所村年表」の付録で事実の推移の詳細もわかります。
(凉)
反「改憲」運動通信 第7期15、16合併号(2012年1月18日発行、通巻159、160号)
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