紹介『メディアと原発の不都合な真実』
上杉隆 著 技術評論社 刊
1380円+税
主に新聞やテレビニュースから情報を得ていると、どうも時代遅れになっていると感じはじめていた。古い人間はパソコンとつきあうのが億劫で、ネットであちこちしているとアッという間に時間が消える……とか。しかし3・11以後、周囲から聞こえてくるフクシマの様子とエダノの記者会見とでは、話の程度が違いすぎることに愕然とした。新聞もテレビもエダノや保安院の言葉そのままで、あれには皆もウンザリした。この原因は「記者クラブ」にあると言われはじめ、そのクラブについてもっと知りたいとこの本を手にした。
上杉さんは著者紹介によると、NHK報道局員や衆議院公設秘書、ニューヨークタイムス東京支社取材記者などを経て、2002年からフリージャーナリストになり、2011年に自由報道協会を設立した、とある。
「記者クラブというものの横並び意識で、誰かが書くまでは書かない。誰かが書いたら一斉に書くという構造があるからなんです。それって、実際にやっていることはカンニングに他ならないんですね。(略)答えを教え合って書く。取材時のメモも見せ合っている。それが『メモ合わせ』なんです。/『記者クラブというのは税金で作り税金で運営している組織なんです。(略)法的根拠を言いなさい』というようなことを言うと、誰も答えられません。なぜなら法的根拠なんてないからです。唯一あるのは昭和33年の大蔵省管財局通達。それが『報道機関に便宜を供与する』と言ってるだけなんです。」
ジャーナリストたちが国家に援護してもらって、排他的な仲良しクラブをつくって、お互いに抜け駆けがないように監視しあい、互助しているなんて、世界中に例をみないことではないか。上杉さんがドイツに行ったとき、「日本はなんでインターネットの情報を社会的に利用しないんだ?」と質問されて、「基本的に日本のマスコミはインターネットはインチキだと最初にいろいろレッテルを貼ってしまったために、そこから脱却できないでいる」と答えている。記者諸君は個人的にはインターネットの情報をたくさん得ているに違いない。ただ記者クラブ情報に依らずに記事を作ってはならない仕組みなのではないか。
「日本では『客観報道』が公正中立でよいとされているけれども、そんなことを言っているジャーナリストは世界でもいません。そんなバカげたことは全くありません。それこそ神でもない限り、客観というのは無理なのです。日本のNHKがやっている『客観・公正・中立』というのは役所から見た報道のことです。」役所の広報係りならそれと名乗ってほしいものだ。一般人が「混乱」しないように、当たり障りのないようにニュース団子をこねている連中はジャーナリストではない。自分たちは大人のつもりで、人びとを子ども扱いにする悪癖は、この国の津々浦々、多方面に及んだ病弊だ。公正な立場なんてないのだから、自力で情報を集め、判断していかなければ。そうすれば、「記者クラブ」に依存している報道機関をもう少しマトモにでき、世界のレベルに追いつけるかもしれない。フクシマ関連の大本営発表への具体的指摘が多々あり、一読を。
(凉)
反「改憲」運動通信 第8期11号(2012年11月7日発行、通巻179号)
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